Entries

夏のおわりに

 トロトロとまどろむような眠りから覚めると夫の顔があった。「気分はどう?」続いて、母と夫の両親がかわるがわるベットの脇にやってきて、心配そうな顔でのぞきこむ。気分は悪くなかった。静脈麻酔の効き目の切れ際の宙に浮かぶような感じが気持ち良かった。家族のひとりひとりと話をしながら、「終わったんだな」という実感が強くなっていった。

 前日の夜中、救急治療の診察室で、「赤ちゃんの心音が見えない」と当直の医師が遠慮がちに言ったのだった。翌日、もう一度主治医に診察してもらうことをすすめられ、改めて訪れたものの、診断はやはり同じだった。
 私の場合は「稽留流産」といい、亡くなった赤ちゃんがまだ子宮の中で留まっている状態だった。主治医の話では、3ヶ月までの流産は妊婦の10人に1人は起こるという。
 「染色体の異常や、卵子の状態が悪いなど、育つことのできない赤ちゃんの自然淘汰として起こるものなんです。母体側の問題ではないから、仕方がないことなんですよ。」私の気持ちの負担を減らすように、主治医は、淡々と話す。11週目だった。
 よくあることだとわかっていても、本人は、そのときはそうは思えない。夫も私もその夜はさすがに眠れなかった。
 「先週、駒場公園を2時間ぐらい歩いた。あれが悪かったんじゃないか?」 「つわりのとき、やきそばと寿司ばっかり食べてたからなぁ。栄養失調になったのかも・・・?」滑稽なほど、細かいことにこだわって、自分を責める気持ちが止まらない。
 
 電話の受信音が鳴り、ファックスが届いた。祖父からだった。
「今、お母さんから報せを聞きました。残念でしたね。折角大事に大事にして来たのに。死生は人間のはからいの外。神のはからい。体を大事にしてください。またその中授かる。授けてくださる。悲しみをこらえてひたすら大事に、それのみ祈ります。 祖父」
 私の祖父は89歳。長寿をうらやましがられるけれど、永く生きるのはしんどいことも多い。2人の息子、1人の娘。長男は20年前にガンで他界していた。次男である私の父は祖父の跡を取って家業を継いでいたが、9年前に亡くなった。
 祖父がこの20年をどんな風に過ごしたか、短い文章の中に見えた気がした。「諦める」しかないんだ。自分を責めたら赤ちゃんがかわいそうだ。すこしづつ気持ちが凪いでいく。
 
入院してからの1週間、関西から駆けつけてくれた、両方の父母のおかげで、憂いなく眠るように過ごした。
 3人が帰って、私と夫は2人に戻った。3ヶ月前も2人の生活だった。何も変わらない。ベッドの上に寝転んで、マンションの庭に立つ大きな木が揺れるのを眺める。何も変わらないはずなのに、何か違っていた。
 命を続けていくこと。「生きている」状態はあたりまえではないんだ。赤ちゃんにとっても、私にとっても・・・・。こんな形で、わかりたくなかったのになぁ・・・でも、赤ちゃんが教えてくれたのか・・・。
 木の葉が少し早い秋の風に揺れている。
 夫が横で、「もう、無邪気な去年の夏には戻れないね」と言って笑った。
 短い今年の夏が終わった。

この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://kanpokitchen.blog105.fc2.com/tb.php/10-c5d3e1cf

0件のトラックバック

0件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

Appendix

プロフィール

阪口珠未

Author:阪口珠未
旅する薬膳料理家 、阪口すみのブログ
(株)漢方キッチン代表。中国薬膳研究のパイオニア。

旅が大好き!キャンピングカーで世界各地へ。旅先で出会った素敵な人や食材たち。ココロとカラダを幸せにする薬膳を、アウトドアライフの中から、発見して、お届けします。
「キャンプカーマガジン」に「珠未の幸福レシピ」を連載中。
著作に『漢方キッチン~ムリなく、しぜんに、いいカラダ』『妊娠力アップ!おめでた薬膳』『西太后のアンチエイジングレシピ』など

药膳专家
汉方厨房的负责人
从1991年到1995年 北京中医药大学 进修 中医,中药,中医营养学,
宗旨《身心的释放》
利用常见的食材来设计药膳食谱。
著作有《提升妊娠力 准妈妈药膳料理》 《汉方厨房――药膳基础――》 《排毒药膳》等。

薬膳料理家 阪口珠未の漢方キッチン






Google+

メディア情報

『毎日使える薬膳&漢方の食材事典』

阪口珠未著
(ナツメ社)
体質や季節に合わせて、身近な食材を組み合わせ、自分で自分の体を癒す!効果的な食べ合わせ例400。身近な食材227種+生薬50種。四季のおすすめレシピや、「冷え」「むくみ」などの悩み別レシピも満載!

『自分でできるはじめてのお灸―外からお灸、中からスープで最強冷えとり作戦!』

阪口珠未著
(主婦の友社)
簡単なのに即効性のある薬膳あたためスープも合わせて紹介。一日5分のお灸とスープで、夏バテ対策から、今年の秋冬の冷え取りまで、心とからだの健康管理はこの1冊でばっちりです!

『西太后のアンチエイジングレシピ』

阪口珠未著
(主婦の友社)
西太后は、74歳で死ぬ前日まで、美と権力を求め、人生を謳歌しました。現在も保存されている宮廷医のカルテを元に、私たちが今すぐ実践できる美と若さを手に入れる食の秘密を紹介します。

『慈禧太后的抗老食譜』(中国語版)

(台視文化公司 )
阪口珠未著『西太后のアンチエイジング』が台湾で出版されました。20年前に中国で「薬膳」の素晴らしさを学び、今、中国の方に著書を読んでいただけるのが幸せです。

『漢方キッチン~ムリなく、しぜんに、いいカラダ

阪口珠未著
(あしざき書房)
これ1冊で薬膳の基本的な考え方が理解でき、美味しく手軽な薬膳レシピも作れる盛りだくさんの内容です。

体をあたためて妊娠力アップ!おめでた薬膳』

阪口珠未著
(主婦の友社)
からだに負担の少ない妊娠力アップ法です。食事メニューを楽しく工夫しながら冷えを改善しましょう。

カレンダー

08 | 2018/09 | 10
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

月別アーカイブ

検索フォーム